南アルプス聖岳

8月最初の週末は夏休みをもらって、2泊3日で南アルプス最南端の聖岳に登ってきた。
天気が不安定で、どうするか迷ったけれどなんとか雨に会わずに頂上に登れた。
この山にはもう随分と以前から登りたいと思ってきたがなかなか機会に恵まれなかった。
自宅にある地図はなんと1997年のものだ。
去年は崩落で道が通行止めになっていたし、今年も日中のみの通行制限だったけれど
8月1日(木)自宅を朝7時に出て中央高速道の松川インターで降り、
遠山郷限界集落を越え便ヶ島(たよりがしま)の聖光小屋前の野営場に午後2時50分に辿りついた。
ここで1日目はキャンプし、2日目は早朝に発って聖岳中腹の県営聖平小屋に泊まり、3日目に頂上を踏んで下ってくる計画だ。
かつてここには便ケ島登山小屋という小屋あったが平成8年に廃業となり、その後しばらく宿泊施設がなかったけれど、10年前(2003年)に待望の小屋が個人の経営で新築され、いまでは聖岳と光岳(てかりだけ)の登山基地としてふたたび賑うようになった。
聖岳にはぜひこの便ケ島から登りたいと長年思っていた。
小屋のすぐ目の前の野営場には24時間電気の点く水洗トイレと炊事場も完備している(一泊ひとり五百円也)。

(広々としたキャンプ場)
8月1日の聖岳は午前中大荒れで、キャンプ場にはずぶ濡れで下山した石川県立小松工業高校の山岳部の若者がベンチで休息していた。

ひとりの若者に聞いてみたら冗談のように「死にそうだった」と言っていた。
夕食はご飯を炊いておにぎりにし、おかずはレトルトカレーだった。
8月2日(金)3時過ぎに起床、曇り。昨日作っておいたおにぎりを食べインスタントスープを飲んで5時20分にいざ出発。
キャンプ場からは所々崩落した森林軌道跡をおよそ40分歩いて西沢渡(にしさわど)に着いた。ここからが本当の登山開始だ。

(増水時の荷物用のかご渡しがある西沢渡)

ひたすら登る。晴れたり曇ったりの中、標高2000メートルの苔平までは胸突き八丁のただただ苦しい登りだった。
これより上は鬱蒼としたシラビソの森と苔むした倒木の緑濃い原始の世界になった。
ようやく登りも緩やかになり森林限界に近付いて、時々明るい陽が差さしてきた。
風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」に出てくるスタジオジブリ宮崎駿の森の世界だ。

頂上と今夜泊まる聖平小屋との分岐点の薊畑(あさみばた)には11時に到着。
標高差1300メートルを5時間近くかけて登ってきた。
当たりは一転して草はらと花畑になった。余力もなくなったし天気も悪くて雨になりそうだから今日の登頂は諦めて、
ここからは頂上とは反対方向へゆっくり下って30分弱の聖平(ひじりだいら)の森の奥に建つ県営聖平小屋へ向かう。

聖平への下り斜面は花畑になっていた。
ちょうどマルバタケブキの全盛期だった。イブキトラノオも花盛り。

ようやく一眼デジカメを取り出して写真を撮る余裕ができた。

色とりどり小さな高山の花が咲く。ところどころに鹿よけの囲いがあった。
ここには以前、ニッコウキスゲの大群落があったが鹿に食われて絶滅したと書いてあった。

聖平はかつては針葉樹林の森だったそうだが、昭和34(1959)年の伊勢湾台風で木々がなぎ倒されて明るい草原になった。

立ち枯れの木々の間の木道を少し森に入ると聖平小屋があった。
小屋は一泊二食付き八千円(素泊まり五千円、夕食は二千円、朝食千円、お弁当は握り飯二個で五百円)、寝袋を持参すると千円引きだ。

ウエルカムフルーツポンチ(無料)をまず一杯いただく(本当はひとり一杯だが無断でお替りしてしまった)。

昼食は定番のインスタントラーメンだ、山で食べると美味しいのだ。
小屋はまだ新しい小綺麗な板小屋で、目の前がキャンプ場になっている。水が豊富ですぐ傍を沢が流れている。
トイレは小屋から下って2、3分のところに離れて建っている。水洗だ。
キャンプ場ではここでも高校山岳部の男女が夕食のカレーの準備で賑やかだった。最近はこんな山奥まで高校の山岳部が来ているのだ。引率の先生も大変だろう。
昔は南アルプス最奥のこの地域は大学の山岳部やワンダーフォーゲルの領分だった。でも大学生らしい集団は個人の小さなグループしか見かけなかった。
午後からはガスが上がり視界はなし。雷雨も来た。

(小屋は大勢のツアー客で超満員、寝具は寝袋だ)
この日の宿泊者は120人、満員だ。小屋客のほとんどは高齢者といってもいい。高校生を除けば若い山ガールを見なかった。まるで宅老所だねと誰かが冗談を言っていた(こういう言葉があることを初めて知った、笑えないなあ)。

(夕食は4時半からと早い、二千円也。豚汁が美味かった。魚のつくだ煮は麓の川で捕れるなんとかヤマメだそうだ)
夜半はすさまじい雨だったが、鼾の大合唱もすごかったらしい。記憶にないが自分も合唱団の一員に加えてもらったらしく、夜中に何度も隣で寝ている人に突かれて目が覚めた。
雨が上がり真夜中には満天の星が出た。明け方近くには尖った三日月も出ていた。

(朝食午前4時開始、千円也。ご飯はお替り自由、味噌汁は一杯のみ。)
8月3日(金)朝は曇り。早々と朝食を済まし、明るくなるのを待って午前4時45分に出発。
昨日分岐した薊畑に荷物をデポしてカメラと雨具を持って頂上を目指す。

(めったにしないツーショット)
登るにつれてガスが晴れ、前衛の小聖岳ではすっかり頂上の姿が見える。

聖岳をうしろに控え眩しいばかりの小聖岳のピークは偽聖といったところか)
この登りでちゃんとした写真を撮っておけばよかった、この後ガスが上がり下山まで聖岳の全景を見ることは出来なかった。
切り立った尾根の道を進み、頂上を見上げながらガレ場を登る。

頂の上の空は快晴だったが、ガスが登り雲が流れて虹色のブロッケンが現れた。
ブロッケンに遭遇するのはすごく久しぶりだ。北アルプスの燕山荘に泊まった時とあと何回かほどしか経験していない。

(ミネウスユキソウ)

(タカネツメクサ?)
登山道の脇には無数の山の花が咲いていた。紫のリンドウ、華麗な薄桃のシャクナゲ、楚々としたミネウスユキソウ、・・・・。

(青紫が綺麗)
聖岳頂上は3013メートル、日本で3000メートル以上の頂上のうち21番目の最後の山だ。

午前7時15分頂上に着いた、奇跡的な快晴だった。

雲海から富士が頭を出している。雄大南アルプスの峰々、遠く恵那山や中央アルプス北アルプスも見えた。

赤石岳、奥が仙丈岳
どんどんと雲が上がってくる。

(遠景の左が笠ケ岳、穂高、槍をへて針ノ木岳、そのさきの白馬連峰も見えた)
15分ほどで下山開始、小聖岳で軽食、薊畑で大休止。
もうすっかり景色は見えなくなった。
便ケ島のキャンプ場でも聖平小屋でも一緒になった高齢の登山者(山梨の自営業、年齢は67,8歳か)から自家栽培のミニトマトを貰った。
酸っぱいのが美味い。
薊畑を9時30分に発、長い下りの始まりだ。車を置いた便ケ島に戻る。
膝がガクガクして登り時間とほぼ同じ時間をかけて登山口の便ケ島に午後14時40分着。
そこそこに身繕いをして15時に便ケ島発、山間の細い道を抜け、
途中遠山郷上村で手打ちそばでお腹を満たして、松川インターから中央道に17時40分に入って
一路自宅に向かって帰ってきた。
高速も国道16号も空いていて、自宅に22時15分着。
不安定な天気のなか、頂上では幸運にも快晴に遭遇した聖岳登山2泊3日の旅だった。