恵那山に登る

敬老の日をまじかに控えて、深田久弥日本百名山のひとつ恵那山に登った。
恵那山のことは、随分と以前から知っていた。
今は亡き母が幼小時に眺めた山だからだ。
生前、母とともに母の生れ故郷を訪ねたことがある。
中津川の郊外の生家のあった場所には、すでに家屋の跡形はなく、
むかし庭だったと思われる場所には夏の日差しを浴びた大きな栗の木がくっきりと影を落としていたことが印象的だった。
休耕田の中に残る先祖の墓参りを済ませ、脚を伸ばして母の育った叔父の家を訪ねると、
その家は段々畑の中に続く曲がりくねった山道を上った先の、
見晴らしの良い斜面に一軒だけポツンと建っていた。
貧しい農家に生まれた母は、「口減らし」のために幼児期に恵那山麓の叔父の家に里子に出され、この家で育った。
家の正面には恵那山がどっかりと大きな姿を見せていた。
年老いた無口な叔父とは、ほんの二言三言言葉を交わしただけだったが、息子の嫁がにこやかに挨拶してくれたことが記憶に残っている。
母と巡ったこの旅は生い立ちについてあまり話したがらない母のルーツを訪ねる貴重な体験だった。
いつかこの勇姿を見せる恵那山に登ってみたいと思っていたが、なかなか機会がなかった。
この連休はかつてない不順な天気の続くなか晴れ間が広がりそうなので、昨日、急きょ恵那山に登りにゆくことにした。
十分な下調べもせず地図だけ持って自宅を午前3時半まえに出発した。
下山後はどこかで行き当たりばったりのキャンプをしてから帰るつもりだったので、とりあえず道具一式を車に積み、東名高速海老名インターチェンジから圏央道を抜け八王子から中央道に乗り、飯田山本インターチェンジを7時40分に下りた。
今回の登山ルートは恵那山登山道ではもっとも新しく出来たアプローチの短い広河原登山口からの道を選んだ。

(登山口手前にある車止めと駐車場)
登山口は昼神温泉を通り過ぎ、さらに月川温泉を過ぎた先の林道の突き当りにあった。

峰越林道の崩壊で登山口からおよそ2キロ手前に駐車場が作られており、ここから登山口までは林道を25分歩く。
登山道は樹林のなかのササ藪の中を、ただひたすら登る。
眺望のない急登の登山道は木の根が多くて歩きにくい。でも沢山生えていた色とりどりの山のキノコが目を楽しませてくれた。

登山口からちょうど3時間で辿りついた頂上は展望なし。

(頂上にある質素な恵那山神社の本宮)
展望台があるが登っても何も見えない。

(ヤマレコやブログに書いてあったとおり何も見えない展望台)
頂上の標識から10分足らずのところに避難小屋があった。
帰ってきてから調べると、本当の最高地点は小屋からさらに少し歩いた先にあったらしい。

(トイレがあるので避難小屋周辺は登山者で大にぎわい)
下山は休憩もせず一目散に下った。登りでは青息吐息で眺める余裕がなかった谷寄りの道からは、飯田の街と南アルプスが眺められた。

(登山道の7/10あたりからみた飯田の街と中央・南アルプス
予想外に早く、登山口には午後3時半前に着いてしまったので、麓でのキャンプは中止して中央道をひた走り、自宅に夜9時半に帰って来た。
今日、本をみてみると、今回登った登山道は1992年山と渓谷社発行の「日本百名山登山ガイド」初版本には出ていなかった。黒井沢登山口から登れば眺望がよい登山が楽しめたようだ。
次に登る機会があれば山中の小屋に一泊してのんびり景色を眺めながら登ってみたい。
これで今年はまだ一か所も登っていない、新たな日本百名山がようやくひとつ増えた(78座目)。
恵那山日帰り登山だった。