アラスカ旅行_アラスカ鉄道の旅

アラスカのツンドラには道がない。飛行機でしか行けない陸の孤島のような小さな集落が点在する。
そんなこの地の唯一の鉄道路線として、アラスカ州営アラスカ鉄道は観光の目玉として人気が高い。港町スワードからアラスカ第2の都市、フェアバンクスまでの750キロをおよそ12時間かけて、のんびり、ゆっくり走る。途中景色がよい場所では速度を落として観光客を楽しませる趣向になっている。
今回のツアーでアラスカ鉄道に乗ることをここに来てから知った。おそらく残りの人生でまたとない経験だ。
飛行機やチャータ・バスの旅行も楽しいが、列車の旅はまた格別の味わいがある。



日本でいえば、ちょうど横浜から弘前までに相当する距離の原野を、小さな集落を繋ぎながら、夏の観光シーズンには毎日一往復、冬季は週一便のみの定期便が走る。
車と自家用飛行機の社会であるアラスカでは、鉄道は住民にとって日々の暮らしの生命線というよりは開拓地の象徴としての意味が大きいのだろう。
今回のツアーでは、氷河クルーズのあとアンカレッジ市内のシティーホテル(ホテル・マリオット)に泊まり、朝9時過ぎにアンカレッジを出発して次の目的地、デナリ国立公園駅を目指した。
客車の運用は民間会社が担っていて、乗車したのはプリンセス・エクスプレス社の快適な展望車両だった。
アンカレッジを離れるに従いツンドラの大地は美しい黄葉が進み、ときどき小雨が降る中をタルキートナで短時間の停車したのみで一路デナリ国立公園駅に向かった。夏の観光列車は終着駅のフェアバンクスまでの途中、この二つの駅にしか停車しない。
車窓からは住民二人の町のシティーホールで手を振るご婦人や1984年2月にマッキンリー山(2年前の2015年に、先住民の呼び名であるデナリ山と改称した)単独登頂に成功し下山途中に遭難し行方不明になった冒険家植村直己の定宿を眺めたり、遠くにアラスカ山脈と雪に覆われたデナリ山(標高6190メートル)を眺めながら、究極ののんびり列車の旅を楽しんだ。

(木々の黄葉は白樺とアラスカの柳)

(頂上がかすむデナリ山)

植村直己の定宿Latitude62°)


展望列車の一階はレストランになっていて久しぶりに食堂車での食事が愉しめた。
むかし、日本国内の新幹線や「あけぼの」や「日本海」などの寝台特急には必ず食堂車があった。ガタゴト揺れるテーブルに座って車窓に映る景色を眺めながら飲む冷えたビールは格別の旅の醍醐味だった。
いまでは予約がいっぱいで乗車券を手にすることが不可能に近い超高級列車でもないかぎり食堂車で食事を摂る旅はできなくなってしまったのは寂しい。

(灌木の紅葉はほとんどがブルーベリー)

(デナリ国立公園駅)
目的のデナリ国立公園駅にはおよそ7時間半かかって着いた。乗車記念にムース(ヘラジカ)のバッジと「ALASKA」の刺繍があるキャップを買った。すこし大きなめの帽子だが孫のカンちゃんの土産にしたい。
今回、想像すらしていなかったアラスカ鉄道に乗ることができた。いつかまたアラスカに来る機会があれば、小型飛行機に乗って道のない集落を訪れる旅とエッセイスト野田知佑の紀行文(「ユーコン漂流」)にあるようなユーコン川をカヌーで下る旅行をしてみたい。