運慶展

日本の中学校や高等学校で教育を受けた者であれば運慶・快慶の名前を知らないものはいないだろう。
東大寺南大門金剛力士像は誰でもが知る彼らの代表作(伝)だ。
はるか昔の中世、貴族社会が崩壊し武士社会の台頭を背景に
それまでの均整と伝統を重んずる彫刻界にまったく新しい仏師の流派が出現した。
のちに慶派と呼ばれる、日本が世界に誇る彫刻集団の誕生だ。
これまでにない水晶を用いた玉眼や解剖学を踏まえた骨格の描写、
隆々と誇張された筋肉の盛り上がる彫刻群は
いまにも動き出しそうな躍動感にあふれている。
静座する半眼の如来や無言に立ち尽くす菩薩像は信仰の宇宙を見つめ豊かな慈悲の表情をたたえている。
この新たな時代の到来を決定的にした中心人物が康慶の実子、運慶だ。
運慶と慶派の彫刻群を集めて開催されている展覧会を東京国立博物館に観に行った。




会場は大変な混雑だったが、
薄暗い寺院の戒壇では近寄ることもできない貴重な神仏像を手の届く距離で眼前にした。
息詰まる緊張感が迫り、静かな興奮とともにたちまち百鬼夜行の中世へと引きずり込まれた。
信仰を支える偶像たちが衆生に語りかける声が時空を超えて心に響く。
芸術という概念のなかった時代に自己主張の雄叫びをあげる仏師たちの声なき声が聞こるような気がした。
偉大な芸術家の足跡に触れる感動の時間だった。

(上野公園の紅葉も見ごろを迎えていた)