両俣小屋から間ノ岳往復

日本百名山のうち3000メートルを越える頂のなかで唯一の未踏峰である間ノ岳に登った。
今回選んだ両俣小屋からのコースは知る人ぞ知る超マイナーな登山コースだ。
と言うよりも、ほとんど知る人がいないと言ったほうが正確かもしれない。
山と渓谷」付録の山の便利手帳にはこのコースは出ていない。
7月13日(金)に休みを取って朝5時前に自宅を出発。
芦安市営駐車場で乗り合いタクシーに乗り換え広河原まで行き
さらに乗り換えて北沢峠に向かう途中の野呂川出合が今回の山歩きの出発点だ。

(9:00am、芦安発広河原行きの乗り合いタクシーは人数が集まれば出発してくれる)

(久しぶりの広河原のバスターミナル)

(北沢峠行のバスにのり途中下車する)

(10:50am、ポツンと立つ野呂川出合バス停の標識)
野呂川沿いの林道を進むと途中靴を脱いでの渡渉があった。流水が切られるように冷たかった。
およそ3時間弱歩いてベースキャンプ設営地の両俣小屋テント場に着いた。
キャンプ場は川沿いの静かな森の中にあり、ほとんどが釣り師のキャンパーだった。
聞いてみると、ここはイワナ釣りで有名な、その道の愛好家には憧れの聖地だということだった。
絶滅危惧種のヤマトイワナの生息地でキャッチ&リリースが規則だそうだ。

(小屋の目の前を野呂川が流れている)

(小屋は雑魚寝の仕様で、山小屋というよりは釣り師の定宿という緩めの感じだった)

かつては小屋から直接、北岳に登るコースもあったようだが荒廃していまは通行禁止の看板が立っていた。
このコースを辿る登山者はここから間ノ岳を経て北岳山荘か、熊の平小屋を経て塩見岳を目指す。
この川辺から間ノ岳を往復する登山者はほとんどいないと小屋番さんが言っていた。
標高差1200メートルの間ノ岳頂上への往復には11時間から12時間はかかる長丁場だからだ。
昨シーズンは2組だけがここから往復したそうだ。
一日目はここで持参のエビスビールを冷やし、明日に備えてのんびりした。
二日目(7月14日(土))は朝4時50分出発。
小屋の脇の登山道を進む。
10分ほど進み道が急勾配になると苔むした道端のそこかしこにゴゼンタチバナが固まって咲いていた。
濃い緑陰のなかに広がる白い花の群れがひときわ目立っていた。
野呂川越までは小屋から1時間、ここから先は長く厳しい仙塩尾根を辿り頂上を目指す。
オシラビソやダケカンバの森は深く、苔と倒木に差す木漏れ日のなかを黙々と登る。
陽があまりあたらないからだろう、花は少ない。




難所の鎖場を過ぎると這松帯となり視界が開け南アルプスの山並みが見えてきた。
三峰岳(みぶだけ、2799メートル)への登りがきつい。
沢山の小さな高山植物がいたるところに花を咲かせて夏を迎えている。
這松には赤い花がついて歩くたびに胞子が霧のように飛び散る。
分岐の手前の這松のなかに雷鳥の親子がいた。
特徴ある啼き声をあげてヒナたちに登山者への注意を促していたようだ。
ここまで来ると登ってきた仙塩尾根が一望できた。


(三峰岳直下の分岐、ここで熊の平小屋へと別れる)

(目指す間ノ岳頂上は左手の奥だ)

南アルプスの山々、右から塩見、荒川三山、赤石の頂。聖、光は雲の中だった)

(このまま縦走したくなるほど、どっしりとした農鳥岳の威容)

北アルプス中央アルプスの峰々)
目指す間ノ岳へはここからおよそ一時間と、あと少しだ。
森林限界を越えるとハクサンイチゲやミヤマダイコンソウの花々が群生し疲れを癒してくれた。
日本第3位の高峰、間ノ岳頂上(3190m)には10時20分に到着した。
長年の憧れだった頂上からの眺めは格別だった。
正面に三角に切り立った北岳が鎮座する。
白い雲が美しい。
360度の視界を見渡すとこれまでコツコツと登り続けた頂の数々が見えた。
槍・穂に乗鞍の北アルプスの峰々、中央アルプス、頭だけの御嶽。
百名山を登りつないだ20年あまりにわたる年月。いろいろな思いがこみ上げてくる。

富士山は渦巻く雲に見え隠れしたていた。
10時45分頂上発。楽しみは長くは続かない。
頂上直下で別の雷鳥一家に遭遇した。
ヒナが親鳥をおいかけてよちよちと歩く姿が可愛らしい。
名残惜しいが絶景を後にする。

急登を細心の注意で下り、仙丈岳へと続く仙塩尾根の最低部まで樹林帯を引き返す。
途中、木の根に躓き愛用のストックを折ってしまった。
下り5時間でテント場に戻った(15時40分)。全行程11時間弱の山歩きだった。
冷えたコカ・コーラが美味かった(400円)。
このあと立て続けに冷えたビール(サッポロ黒缶600円)を飲んだら悪寒が来てダウン。
脱水状態で急激にアルコールを飲んだのが効いたらしい。
三日目の今朝は5時半にキャンプ場を後にして来た道を戻った。
あと5分のところで定時バスに乗り遅れてしまい
野呂川出合のバス停でのんびり一時間半後の次の便を待っているとわずかに待つこと15分で
北沢峠から広河原へ戻る乗客の誰も載っていないバスに運よく乗ることができた。
あとは広河原から芦安まで乗り継いで、途中の甲府では38℃という猛烈な暑さの中、自宅には12時過ぎに帰り着いた。
自宅周辺も35℃の猛暑だった。