世の中のシガラミから解放されたら、晴耕雨読、自給自足が長年の夢だった。
憧れるのは宮沢賢治の世界。
冷害に苦しみながらも夢と理想を追い続けた賢治の苦悩が、時代を超えて心を揺さぶる。
食材は自家栽培、調理は食べられる分だけを手料理する。都会暮らしでは肉や魚の自給自足は不可能なので、せめて野菜は自作したい。ささやかだが永遠のロマンである。
とはいえ庭のない集合住宅に棲む身にはベランダだけが頼みの綱だ。
でも去年頑張った水耕栽培は全て失敗だった。虫にやられた。
今年は初心に帰りプランターに種子を蒔いて、水遣りを忘れずに務めたけれど、残念ながらそう簡単にベランダ菜園の成果は手に入らなかった。
数々の初めての作物に挑戦したけれど、オクラは8粒まいた種子から2個だけ芽が出て実は2個のみ、中玉のトマトは台風で折れてしまい収穫は不揃いの数個のみ、二十日大根は枯れてしまい、ゴーヤは花が咲かず、小松菜も、サラダ菜ミックスも、パクチーも惨憺たる結果だった。しぶといバジルさえ葉が縮れてしまった。夏場、極端に暑過ぎたのが悪かったようだ。
自家菜園が無理なら(諦めたわけではないけれど)せめて、おやつのお菓子は手作りを目指したい。
日差しの弱くなったこのところ、ケーキづくりに挑戦中だ。
薄力粉を計り、ベーキングパウダーや泡だてたたまごを混ぜる。
繰り返すうちにだんだん様になって来た。
たまご2個、薄力粉100g、グラニュー糖70グラム、湯煎したバター35グラム、牛乳大さじ2、ドライフルーツに干しぶどうを追加して、試行錯誤でだんだん質の向上がみられた。
においの残るベーキングパウダーの使用はやめて、砂糖を加えた全卵をツノが立つまで固く泡だて、ふるいにかけた粉を混ぜて、180度のオーブンで30分焼く。これがなかなか奥が深い。
失敗を繰り返して、あとすこしでケーキだけは自作できそうだ。
雪のない枯葉色のホワイト・クリスマスに、ショパンの漆黒のノクターンを聴きながらブルーマウンテン・コーヒーを飲み、一人静かに黄金色に焼けた手作りのケーキを食べるサイレント・ナイト。
クリスチャンでもなんでもないミーハー老人の、これが今のところ目指す令和初年の終わりの倹(つま)しい虹色ロマンである。
失敗作を自己責任で食べていたら、またまた太ってしまった。
自給自足は難行だ。