八幡平

秋田と岩手にまたがる八幡平は太古の噴火によって噴き出た溶岩がもっこりと固まった高原のような山である。まるで緑色の握り飯を押しつぶしたような火山地帯だ。

名前は、むかし、征夷大将軍坂上田村麻呂がこの地で八幡神に武運長久を祈願したことに由来するという。

史実には田村麻呂がここを訪れた記録はないらしいが、あちこちの温泉から噴き上がる猛々しい噴気や幾重にも織りなす雄大な山並みは荒ぶる軍神の名にふさわしい。

この山域には点在する温泉地を繋ぐ快適な自動車道路 が整備されており、この八幡平アスピーテラインを利用すれば誰でも労なく来ることができる観光地になっている。

これまで何度もこの火山域を車で横断したり、沿道の後生掛温泉にも泊まったりしているが、最高地点である山頂を踏みしめたことはなかった。

朝三時過ぎに自宅を出発して予想外に早く盛岡を通過した7月24日の昼前、途中何度か強い雨に打たれたけれど、渋滞もなく高速道路が北東北に車がたどり着くと、雨が上がり、暑くも寒くもない快適な初夏の気候となった。

この日の目的地は北秋田の花の百名山、森吉山に近い阿仁川沿いの集落である米内沢としていた。天気が好転したので東北自動車道松尾八幡平ICで降りて八幡平に寄り道することにした。

見返り峠の駐車場には午前11時半過ぎに着いた。ここが八幡平頂上への登山口である。案の定、駐車場は観光客で混雑していた(駐車場料金一回500円)。

レストハウスで水とお菓子を買い込み、軽登山靴に履き替えて歩き出した。下調べもなく来てしまったので、案内板を見るといくつもの沼があり頂上への道は沼巡りの道になっていた。

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よく整備された遊歩道を鏡沼から時計回りの歩くことにした。思ったほど人がいない。

八幡平は美しかった。

まったくの予想外の景観と夏の花の饗宴に驚いた。

緩やかな登山道を登ってゆくと緑濃い森の中に大小の沼が点在する。

頂上に組まれた展望台からの眺望はなかったが、森のなかに佇む池塘やお花畑のような高山植物の群生は深田久弥の「日本百名山」や田中澄江の「花の百名山」に選ばれただけのことはある。

誰でもが歩ける観光地だからとなんとなく気が進まなかった八幡平に対する先入観は大きな誤解だった。おそらく日本の高山地帯でこんなにも簡単に美しい湿原や山の花に接することができる場所はこの八幡平以外にはないだろう。

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森の中の八幡平頂上1613m

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鏡沼

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展望台からの眺望

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ワタスゲの咲く湿原への道

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多彩な高山植物に出会う

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木道が気持ちよい

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八幡沼全景

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八幡沼

わずか二時間足らずの八幡平頂上付近の散策だったが、こたびのような夏の花の時季や天気の良い紅葉の季節にもぜひまた歩きたい場所のひとつになった。

周辺にはたくさんの鄙びた温泉地があるので湯治がてらに寄るのも良いかもしれない。

八幡平周遊は新たな愉しみを見つけた旅となった。東北はそれほど関東から遠くない。