GoToトラベル・キャンペーンのなか予約が取れたので、慢性腰痛の療養に秋田の乳頭温泉郷に湯治に行った。
スキー場のある田沢湖温泉郷を過ぎ、ブナの森のなかの道を登ってゆくと乳頭温泉郷がある。温泉郷には七つの温泉宿がある。そのなかの「鶴の湯」が観光名所としては名高いが、さらに温泉郷の最奥には蟹場湯、孫六湯、黒湯、妙乃湯、大釜温泉が ひっそりとと佇んでいる。
このうち蟹場湯、孫六湯、黒湯の三湯にはそれぞれ乳頭温泉郷の名前の由来になっている東北百名山の乳頭山(烏帽子岳)への登山口があって、蟹場からは田代平湿原を横断して頂上に至る蟹場コース、孫六温泉からは広大なブナの森を経て田代平山荘避難小屋から頂上に続く孫六コース、孫六湯の前の川を挟んだ黒湯から登る一本松コースには途中で道端に温泉が湧き出しており、ただ地面を掘っただけの天然温泉池があってその先に頂上への急登が続く。
乳頭温泉郷の温泉宿はそれぞれ異なる独自の源泉を持ち、今回泊まった黒湯は川を挟んで孫六湯のすぐ 目のまえだが孫六とはまったく泉質が異なっている。
孫六は透明な温泉でそれも温度や湯色の異なる複数の源泉がある。
黒湯は白濁するふたつの硫黄泉の源泉がある温泉宿だ。白い湯なのになぜ黒湯という名前なのか宿の女将に聞いてみればよかったと帰ってから思い返した。
湯治が目的なので、このたびは黒湯に五連泊して朝な夕なに白濁の露天風呂に浸かって腰痛療養に専念した。黒湯には通常の食事付き宿泊施設に加えて、茅葺屋根の旅館棟や自炊棟もある。今回は木造二階建ての自炊棟の二階の角部屋を借りた。磨きこまれた階段を登るたびにギシギシと音がたつ年季の入った昔懐かしい建物だ。テレビはないが、インターネットは繋がるようになっていた。壁にはコンセントがあった(ないと書いたブログがあったので念のために記録しておく)。
あいにくの天気で晴天は五日目と帰る日の六日目だけで、あとは曇り時々雨あるいは本降りの雨に夜間激しい夜が降る日々だった。
朝起きてすぐに露天風呂に入り、午後に入り、夕食前と寝る前の一日三、四回の入湯で過ごした。
もともと腰痛はじっとしてばかりでもよくないようで、坐骨神経痛や脚のしびれや膝痛には適度の運動、特に歩くといいような気がしている。
寝て食べてばかりでは体に悪い。湯治の間の運動不足の解消に、乳頭山と秋田駒ケ岳に登ることにした。どちらの山も往復で3~4時間で登って下りてこられる。過酷なコースではないので、筋肉痛にならない程度のちょうどよい運動量だ。
乳頭山(烏帽子岳1478m)は9月26日(土)に登った。一本松コースを登り、孫六コースを下った。小雨がぱらつく天気で残念ながら景色を眺めることはできなかったが、田代平湿原でほんの少しだけ駒ケ岳と田沢湖が見えた。
秋田駒ケ岳には快晴の9月28日(月)に登った。素晴らしい景観に恵まれ、遠く北東北の山々がよく見えた 。すでに頂上付近は紅葉が真っ盛りの状態だった。 真っ青な空の下で透き通る陽を浴びて輝く草紅葉はまるで燃えるように見えた。吹きっさらしの大焼砂を下り馬場の小道を初めて歩いた。この通称ムーミン谷ではチングルマが濃い紅色に紅葉して見事だった。急坂を男岳に直登しながら眺めた火口原はまるで自分が天空を舞っているような錯覚を誘う。登山口の八合目に下る途中で前の日に登った乳頭山が見えたのにはちいさな感動を覚えた。こちらは紅葉にはまだ少し時間があるようだ。遥か彼方に森吉山や岩手山が見えた。おそらく鳥海山も見えていたのだろうけれど同定はできなかった。
食事は自炊。北秋田なので なんと言ってもきりたんぽ鍋だろう。食材は宿からおよそ30分ほど車で下った秋田新幹線田沢湖駅近くの大きなスーパーマーケットで仕入れた。初日は土鍋にたくさん作り置き、翌日も具を足して食べた。
きりたんぽ鍋の元祖はだまこ鍋で、長い竹輪のようなきりたんぽの本場は青森との県境に近い大館が有名だが、これは八郎潟に接する五城目町が発祥の地だそうだ。丸めた米団子をきりたんぽ鍋と同様に鶏肉と芹や茸ともに鍋で煮て食べる。茅葺の自炊棟に一か月以上滞在の湯治客から茸(現地ではブナヒラタケと言っていた、ブナハリタケか?)を貰ったので煮て食べた。しっかりとした歯ごたえで味も濃く絶品だった。あとはパスタを茹でたり、出来合いの餃子を焼いても食べた。それなりに美味しく食事を楽しめた。
食材の買い物がてら角館に脚を伸ばすと途中に抱返り渓谷という景観の地があった。東北の耶馬渓といわれるそうだ。
青く澄んだ渓谷の奥には立派な滝があった(回顧(みかえり)の滝)。すっかり観光地化された角館では比内鶏の親子丼と稲庭うどんを食べた。
のんびりの五泊六日だった。
おかげで腰はすこしよくなったような気がした。でも少しお腹が出っ張ってしまった。
健康によいのか、悪いのか判断が難しい湯治だった。