童話を読む

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今年のゴールデンウイークは持て余すほどの時間があったので、子供の頃に読みそびれた童話を読んで過ごすことにした。

最近、朝日新聞福岡伸一氏がドリトル先生の童話を舞台に新作を連載しているので、手始めにドリトル先生を読んでみることにした。

ビュー・ロフティング作のドリトル先生シリーズは19世紀後半を舞台にした動物の言葉を理解する医者の話だった。

はじめに最も有名な「ドリトル先生航海記」の文庫版を図書館で借りて読んだ。

話はイギリスの小さな町の丘の上に住む小太りで背の低い動物の医者が主人公の冒険譚だった。

作者が自分の子供に話すために書かれた児童書なので、とても読みやすい。このシリーズの初出は「ドリトル先生アフリカへ行く」で、「航海記」が2冊目の作品だった。

この作品には井伏鱒二河合祥一郎、最近では福岡伸一の新訳があるようだが、読んだのは河合訳の文庫で、続いて挿絵付きとふりがながついた児童向けの「アフリカに行く」を読んだ。

児童向けの文庫に描かれている少女漫画に出てくるような登場人物の挿絵が自分のような年代の読者には物語の舞台と合わないような違和感を感じるが、アニメに親しんだ現代の子供たちにはこの方が受け入れやすいのかもしれない。

最初に二作目を読んでしまったが、初作を読んで物語の背景が理解できた。「アフリカへ行く」は日本の昔話「桃太郎の鬼退治」のような展開で、現在ではなかなか書くことがのできないアフリカ原住民について差別的な記述が多く、2作目の「航海記」が有名である理由が理解できた。

最近の言論統制のような言葉狩りの風潮の中で、書かれた当時の時代背景を大切にして、むしろ時代の変化を理解するためにもお伽話としての記述の内容に目くじらを立てる必要はないと思うし、この2冊を子供の頃に読む機会があれば、さまざまな動物と会話し、鳥やイルカと共に小さな舟で、嵐を乗り越えて海賊を成敗しながらさまざまな冒険に出会う物語に心が弾んだだろうと思った。できれば初作から読む方が良いと思った。

日本の童話でどうしても読んでおきたいと思っていた作品に宮沢賢治の童話群がある。

有名だが、多作のこの詩人が心血を注いだ著作群の多くを読んだことのある読者は少ないのではないだろうかと思う。

代表的な作品が多数載っている点で、歴史のある谷川徹三編集の岩波文庫版で読んだ。

一冊目の「銀河鉄道の夜」は先日、道志村の別荘に行った時に貰って来たものだ。別荘の住人も同じ思いで宮沢賢治の童話集を読もうとしたようだが、岩波文庫は字が小さくて読めないから持って行けというので、ありがたく貰って来た。

二冊目はブック・オフで購入した(わずか二百円)。

断片的にはあれこれこれまでも読んできたし、絵本や映画にも沢山取り上げられて目にしていたけれど、あらためて宮沢賢治の作品群を通読してみて感じたことは、この作者は異界の住民であり、まれにみる天才的な詩人であるということだった。

未完の著作も少なくない作品群に描かれている世界は童話という寓意の範疇を逸脱して、無限の時空を駆け巡り、あるいは深い森の中で、あるいは乾いた砂漠の都市で、あるいは風の渦巻く学校の校庭で、さらに天上に乳白色に広がる雄大な銀河の流れの中を漂い、読む者を異次元の世界へ誘う。今まで読んだ書物に描かれたどんな世界とも違う賢治の不思議の世界へ読者を連れて行く。

二度、三度と読み返して、思いはますます強くなり、天才と言ってはばかることのない稀有の詩人が、心が震える超然とした世界を後世に残してくれたことに感謝したい気持ちになった。