年の瀬

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今年もあと10日となった。気分的にはなんとなく気忙しいけれど、日々の暮らしは淡々と進む。

夕方、所用で元職場近くの尾根道を歩いていると地平の果てに富士山と神奈川の山並みが見えた、

この数日、冬らしい寒波が襲来し、晴れの日が続いている。澄み切った日没の空には明るい金星が目立っていた。おそらく上空に輝く大きな星は木星だろう。奇跡のような美しい時間帯に今日も遭遇することができ、悠久の宇宙の不思議を感じた。

午後、予定の行事まで時間があったので、陽が傾くまでの少しの間、途中の図書館で時間潰しをした。空いた席をみつけて、昔ながら山の記事満載の月刊誌「山と渓谷」の新年号を読んだ。山々の写真を眺めると心が和む。

中学を卒業した年から最近まで山歩きを心身のリフレッシュメントのための最も大切な手段として、国内あちこちの山を歩き回った。

社会人となってしばらくは途絶えた山歩きだったが、子供達が成長し彼らだけでなんとか留守番が出来る年頃になった40歳代から、再び山歩きを再開した。まさに寸暇を惜しんで山に出かけた。

若かったので、体力にも余裕があったから、短い連休を使ったテント泊の縦走強行軍や車による夜行日帰り山行なども当たり前だった。自分のことではあるけれど、今から思うと随分と羨ましい。

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日本のスイス、立山連峰

図書館で開いた今月の「山と渓谷」誌を見て、気象庁職員でありながら山を舞台にした多くの小説を書いた小説家、新田次郎の今年が生誕110年を記念する年だと知った。

それほどたくさんの著作を読んだわけではないけれど、この作者が山と渓谷誌に連載していた「孤高の人」を読んだ記憶は鮮烈に残っている。

人付き合いが苦手な自分には、この小説の主人公である登山家の加藤文太郎の単独行による山歩きは、未熟な自分と対比して、まさに憧れそのものだった。 万全の準備と隅々まで気を配った彼の山歩きの計画や行動は、青年期を目前に控えた自分にとって輝く心のヒーローだった。携帯食や行動食の準備にはこの小説に書かれた加藤の所業に大きな影響を受けた。というよりほとんど真似をしたという方が近い。

憧れのヒーローはそれでも遭難して命を終える。大自然の懐に抱かれるように消息を絶った彼の生き様と冒険という言葉の持つ魅惑的な響きにすっかり虜になった高校時代の自分があった。

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深田百名山百番目、世界遺産屋久島の宮之浦岳

深田久弥が選んだ名著「日本百名山」を目標に山歩きに勤しんだ時期もあったけれど、長い休暇が年末年始と夏休みしか取れない仕事柄、遠い北海道の山々や離島の峰に登ることが難しい日々だった。できれば体力のあるうちに達成したいと思っていたが、大好きな北岳を代表とする南アルプスの山々には二度、三度登った峯も多いのでピークハントを優先していたわけではなかった。大学のワンダーフォーゲル時代に頂きを踏んだ日本アルプスや北海道の大雪山系を除いて、社会人として40歳以降になってからの30年間に深田百名山のうち85峰の登頂を達成した。もうあとの15峰は無理だろうと諦めている。

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世界遺産白神山地、田代岳の頂上湿原から望む岩木山

深田久弥百名山以外にも田中澄江の「花の百名山」や岩崎元郎の中高年のための新百名山をはじめ南北に伸びる日本列島には美しい山々が数知れずある。山は四季折々に違った姿を見せるので同じ山に何度登っても、芽吹く木々の梢や紅葉、沸き立つ雲や紺碧の空の下で、その都度、新たな感動と出会うことができる。これまで踏みしめた頂きははるかに百を超えるが、徒然に、これからの人生であといくつの峰に登れるかと考えると気が遠くなる。人生は意外と長くて短いことを実感する。

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田中花の百名山秋田駒ヶ岳錦繍