縁(えにし)

思わぬところで思わぬ人とつながることがある。あるいは思わぬ出来事で 新たな交友を深めることがある。

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Alaska星のような物語.星野道夫. DVD全3巻

先日、ほんの気持ちだけ手伝いをしているNPO法人の会合のあとに理事長と雑談になった。たまたまその日は図書館に寄ってから会合に行ったので、話題が読書のことになった。何を読むかと聞かれたので、ノンフィクションや新書が多いと話し、最近では新田次郎の「アラスカ物語」に感動したことを話した。その流れでアラスカの話から写真家、星野道夫の話題に発展した。話すうちに理事長が彼のファンであることをはじめて知った。話に加わったもう一人のNPOの幹部も彼のファンだという。ロシア・カムチャッカ半島で熊に襲われて亡くなってからすでに25年(1996年に亡くなっているので今年が27回忌になる)も経っていて最近ではこの著述家でもある写真家を知らない若年世代が多くなったので、久し振りに星野やアラスカの話しができてうれしかった。

理事長は星野道夫の著作や写真に登場するアラスカ・インディアン(クリンギットインディアン)に会ったことがあるという。星野の死後に、彼の著作ではボブと呼ばれていたこの人物はしばらく日本に来て住んでいたことがあるとのことだった。思わぬ話に驚いた。かなり個性的な人物だったようだ。

後日、理事長がアラスカのDVD三巻を貸してくれた。すぐに一気に観てしまった。厳しくも美しいアラスカの四季の映像に縮こまり気味の心が解放された。

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気管支の枝読みで考える胸部画像診断入門(佐藤功著、日本医事新報社)

大学時代に一緒に山に登ったり、酒を飲んだり、作品集を作っていた旧友の佐藤功(さとうかたし)氏が彼の新刊著作を送ってくれた。私はワンダーフォーゲル部で彼は山岳部だった。写真が趣味で、彼は医学部を卒業後、放射線医学の専門家になった。のちに大学教授を経て医系大学学長に就任し、定年退職した現在も現役の医師として地域医療や専門医療に従事している。肺がんの権威のようだ(門外漢の自分にはよくわからないが)。禁煙運動の積極的な推進者でもある。以前に全国を講演行脚している話を聞いたことがある。

愛妻家の彼は、仕事の傍ら、絵を描いたり、ヴァイオリンの発表会をしたり、夫婦で世界旅行を楽しんだりと、定年後を悠々自適に暮らしているのかと思っていたら、現役で専門書を書いていたと知り驚いた。謂わば、近況報告がわりに本を送ってくれたのだと思う。本は専門書なので畑違いの自分には内容を論評することはできないけれど、研究者・学者であり教育者としても活躍し、定年後も最前線で奮闘する姿に頭がさがる。若い頃から見た目の厳(いかつ)い(・・失礼!)、いかにも山男といった風貌にもかかわらず、ひょうひょうとした性格で、皆に愛される人柄だった。道を究める姿は歳に関わらず見習わなければと思うが、自堕落な自分にはとても真似できない。コロナ禍が収まったら、また昔話に華を咲かせたいと思う。

石川啄木の歌集「一握の砂」に次の句がある。

ともはみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買い来て妻としたしむ

吾が妻には迷惑だろうけれど、花でも買ってきて自堕落の自己弁護に心をかけることにしよう。

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春の花マーガレットを買ってきた

余談だが、天気の良い日には逗子駅から海辺に出て旧石原慎太郎邸(今日も通った。ご冥福を祈り合掌!)の前を通り披露山に登り鎌倉まで歩くことが定番の散歩コースになっている。歩き疲れてたまたま立ち寄ったのを機会に、その後散歩のたびに寄り道するようになった定員五人の小さな江戸前寿司屋の屋号は「えにし」という。他に馴染みの店というほどの贔屓の店はないが、この名前の店が我が家の数少ないお気に入りの店になったのも何かの縁に違いない。

人生は出会いと別れの不思議が交錯するほんの僅かな一瞬の繰り返しでできている。一期一会ですべてが決まる。あるいは偶然が必然を生み出すことで歴史が刻まれるのだから、昔と今がそのまま未来につながっているのだと思うのだ。過去と今こそがもう未来であることに疑いない。