幻の蛍の川

毎日雨が続く。
雨でも晴れでも、一日にすることは同じなのに
晴れ間がでると嬉しくなるのはどうしてだろう。
我が住居の前には川が流れていて
川縁は市民の散歩道になっているので
雨がふると増水注意の放送が
朝から晩まで流れている。
今住んでいるこの集合住宅に引っ越してきたのには
川のそばに建っていることも決める理由のひとつになった。
昔はこの川にも綺麗な水が流れていて
よく神社の境内から飛び込んで遊んだと
近所の床屋の主人が昔話をしてくれる。
この季節には蛍も飛んでいたいう。
大雨が降るとすぐ水が溢れて
昭和36年の大洪水では今も営業中の床屋の鏡の下まで水があがったそうだ。
高度成長期に護岸工事がされた後には
昔の清流の姿はすっかり消えてしまい
今では夢のような話だけれど、
はかなく光る蛍の飛ぶのが見えたらどんなに素敵だろう。
夜、ベランダに出て暗い川を眺めてみるが、幻にも光は見えない。
一時に比べたら随分と水がきれいになって
時々、暗闇に鯉の跳ねる水音が聴こえる。
こんな想像をするのは

伊集院静の短編小説集「眠る鯉」を読んだ後だからかもしれない。