喜劇の世界

俳優、森繁久彌がなくなった。
亡父が大好きで、まだ小学校の頃だと思うが、なんども映画館に連れて行かれて見た記憶がある。
駅前シリーズや社長シリーズだったと思う。
幼かった自分には変な大人たちが繰り広げるドラマは理解を超えていて、大人は奇妙だなという思いが、思春期の率直な印象だった。
脇役の三木のり平加東大介小林桂樹フランキー堺などなど、
今思えば名優たちの繰り広げる世界は、幼い子供には知ってはいけない異質の奈落を垣間見るような不思議な経験だった。
大人に苦悩があると思っていなったし、自らがやがてなる大人は完璧だと単純に信じていたからだと思う。

映画のせいではないかもしれないが、多感なこどもにとって、大人になることが漠然と不安になった記憶が、どこかに残っている。
映画のような大人になることが不安で、ますます大人を理解できなくなったのかもしれない。
喜劇を理解していなかったからだ。
今、喜劇を見たい。
下町のデン助喜劇のような舞台をじかに観てみたい。
父が喜劇をみに子供を連れていった気持がこの年になって少しだけ理解できるような気がする。
連れてゆく息子たちはすでに大人になってしまって、
今となっては父の思いを継ぐことはできないけれど。