あんパン考

昨日はバレンタインデーだったのでお昼のお弁当はチョコレートパンにするつもりで、電車に乗る前にコンビニに寄った(ひとりチョコプレゼント)。

調理パンの隣の棚に甘い菓子パン陳列されていたが、昔ながらのサザエのような形で中にチョコレートクリームの入ったパンが見当たらない。人気がなくて、もう売っていないのだろうか。代わりに棚の真ん中にあったあんパンを買った。

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ファミリーマートのあんぱん

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中身はこんな感じ

つらつら考えると、はじめてあんパンを食べたのはいつだったのだろうか。

昭和30年代初頭、実家の勝手口には木の箱に入ったパンを担いで自転車に乗ったパン売りが来ていた。当時は、サザエさんの漫画のように、魚屋とか酒屋とか、いろいろな店の御用聞きが勝手口に配達や注文取りに来ていた。パン屋の行商は実物を持って来てその中からめぼしいものを選んで買い上げる仕組みだった。幼児期には食パンを食べた記憶がない。食べていたのは、たいがいはあんパンやジャムパンかクリームパンのような菓子パンだったように思う。食事というよりおやつに近い感じだったのだろう。留守がちの両親のため、いつも居間のちゃぶ台のうえに菓子パンが乗っていた。ちなみにその頃は若い、おそらくは十代の女中さんが2、3人いたように思う。弟には、ばあやがいたが、病弱で幼稚園に行けなかった私の御守役はこの女中さん達だった。まだ小学校に上がるまえの記憶だ。いつの間にかこの娘たちは居なくなってしまった。

次に覚えているあんパンの記憶は、中学校の購買部だ。当時は給食制度はなく、みな弁当を持ってくるか、職員室近くの購買部でパンを買うかのどちらかだった。売っているのは素のコッペバンやこれにマーガリンやピーナツバターを挟んだもの、あんパン、ジャムパン、クリームパンなどの甘いパンで、品数は多くなかった。メロンパンを売っていたかどうかの記憶はない。あわせて瓶の牛乳が売っていた。その頃はまだパック入りの製品はなかった。パンはたぶん1個10円から20円だったのではないかと思う。パン2個と牛乳を買っても、お昼代に貰った百円(五十円だったかも)にはならず、おつりは貯金してお小遣いにした。貯まった小遣いではプラモデルを買った。主に戦闘機や軍艦の模型を買って作った。

高校には校庭の片隅に食堂があったので、お昼はここで麺類かカレーを食べた。多分、一食50円はしなかった記憶がある。パンを買って食べた記憶はない。育ち盛りでパンでは物足りなかったのだろう。日本は高度成長期を迎え、元気で明るい、古きよき時代だった。自分にとっては受験勉強に追いまくられて、鬱状態の暗い時代だったけれど。

成人してからも時々、おやつ代わりにあんパンを食べた。牛乳と一緒に食べるのが好きで、これはいまも変わらない。

あんパンの由来を調べてみると、東京都中央区銀座の「木村屋」が明治7年(1874)に考案したとある。当時は珍しかったパンを酒まんじゅうを手本にして、パン酵母ではなく酒種(麹酵母を繁殖させたもの)を用い、日本人向けに薄皮のパン生地で小豆の餡をくるんで焼き、「あんぱん」として売り出したのが始まりだそうだ。翌年には明治天皇に献上され、それが4月4日だったので、この日は「あんぱんの日」なのだそうだ。ひょっとしてアンパンマンの日もあるのかも思って調べてみたら、案の定あった。4月ではなく、10月3日だそうだ。

そういえば幼年期の行商のパン屋の木の箱の横には白い文字で「きむらや」と書いてあったような気がする。幼児にも読めたのでカタカナでも漢字でもなかったように覚えている。銀座木村屋のチェーン店だったのか、本家にあやかった名前なのか不明だが、記憶ではそのように書いてあったように思う。

現在の住居の近くにも表に「キムラヤ」と書いた日よけのあるパン屋がある。こちらはおそらく元祖「木村屋総本店」のパンを仕入れて売っているのだろう。

銀座に散歩に行ったときに話の種に「木村屋総本店」で「あんぱん」を買ったことがある。上に塩漬けの桜の花がのっている純正品だ。これといった感動はなかったが、あんパンに桜の花の塩漬けは妙案だと思う。ここ以外では、この意匠のあんパンはないのではないだろうか。コンビニのあんパンには芥子粒が乗っているものや黒ごまが乗っているのことが多いような気がするが、どうだろう。いずれにしても欧米であれば、あんパンはデザート扱いだろう。甘い餡の入ったパンはおそらくケーキに分類されるのではないだろうか。菓子パンというジャンルは言い得て妙な名前だと思う。

この木村屋のあんぱんが契機になってジャムパンやクリームパンが考案されたらしい。餡も小豆の粒あんこしあんのほかに白あんやウグイスあんなど、さまざまな種類がある。自分は粒あんが好きだ。登山の行動食にも最適だ。たかがあんパン、されどあんパン。あんパン考は果てしなく続きそうだ。

毎日の朝食は野菜サラダに数きれの焼きベーコンか目玉焼き、紅茶と一杯の牛乳に厚切りトーストが定番だ。トーストにはバターは付けずそのまま食べるか、自家製ジャムを付けて食べる。

少し前に高級食パンブームがあった。2斤で千円近くする生食パンと称される高額な食パンが流行っていた。次々と新店舗が開店して、一時は焼き上がり時間になると店先に長蛇の列ができたこともあったが、すでにブームは去ったようだ。我が家の近くにも生食パンの店が出来たので試しに買ってみたが、主食にするには甘すぎて口に合わなかった。菓子パンを朝食に食べることはないけれど、北海道のお土産で苫小牧近くの三つ星製パンの豆パンだけは例外だ。このパンは豆の甘さとパンの食感のバランスが絶品で、好物にして食べている。北海道のお土産には、いつもこのパンを頼んでいる。

人生、つまるところ「食う、寝る、遊ぶ」に尽きる。食の記憶はつきないので、暇に任せて脳みその隅をほじくってみようと思う。海馬あたりにもアミロイド蛋白に絡まった記憶が埋まっているかもしれない。