滑落

活発な梅雨前線があちこちに’経験のない’ほどのすさまじい豪雨をもたらし
各地で大水害のニュースが続いているけれど
海の日は久しぶりの3連休なので
前から一度登ってみたかった
北アルプスの餓鬼岳に小屋泊まりの予定で出かけることにした。
登るかどうかは登山口についてから天気の具合で決めることにして、
メンバーは自分を含めていつもの3人だ。
八王子に向かう途中の車中で聴いたラジオのニュースでは
14日土曜日の朝4時頃、神奈川県でも山北地方に1時間に105ミリの大雨が降ったという。
高速道を走っているうち信濃地方では雨はあがり

沢登山口には予定通りの時間に到着した。
5,6台の車が停まっており身支度を整えていると
一台の軽自動車が登山口を通り過ぎて山道に入っていった。
あとで分かったのだが餓鬼岳小屋の小屋主の伊東さんの車だった。
伊東さんは登山道の具合を偵察に来たということだった。
7時50分に歩き始めて白沢沿いの山道を登り紅葉ノ滝の道標を過ぎ

(濡れて滑る板はしごの現場)
およそ50分歩いたのでそろそろ1本目の休憩を取ろうとも思っていた矢先、
すぐ前を歩いていたメンバーの一人が濡れた板はしごで足を滑らせ
叫びながら二転三転しておよそ30メートル下の滝壺わきに滑落した。
ちょうど紅葉ノ滝の眼の前だった。
叫ぶと返事があるが動けないようだ。
すぐあとから伊東さんが登って来ていた。
一旦沢に下りて救助しようとしたが
ザイルもなく2段目の滝壺から上に登れない。
諦めて現場に戻ったが初めて登る山で地理がわからず携帯電話も圏外だった。
伊東さんがいてくれて本当に助かった。
少し登ると携帯の繋がる場所があることが分かり、
長野県警に救助の連絡が出来た。
そのうち叫んでも返事がなくなり登山道から真下の位置なので木の葉の間から見える場所で横になったまま時々手を動かしているのが見えたから命には別状はないようだった。
滝壺の水音で声が届かないのかもしれない。
救援の依頼をしておよそ3時間後
長野県警山岳救助隊の4名が到着した。

2名の若い救助員がザイルで下り滑落したメンバーを背負ってくれ、
たまたま通りかかった登山者にも手伝ってもらってザイルで引っ張り上げた。
滑落地点は滝壺脇で下3メートルがほぼ垂直になっており、樹間から岩場に落ちた時に
腰と胸を打って歩けない状態だった。
手足は冷たくなっていて口唇も蒼白だったが意識はしっかりしていた。
時々霧が流れて救援ヘリが飛べるかどうかわからないと救助隊のリーダーが言っていたが
伊東さんが少し登ると登山道整備のための機材置き場あることを教えてくれ
そこまで担ぎあげればヘリで釣りあげられることができるということで
少し晴れ間の見えた1時過ぎに救助ヘリが飛んできて救助された。

(ようやく飛んできた救助ヘリ)
その後、松本市内の相澤病院救命救急センターの屋上のヘリポートまで運ばれ無事病院に収容された。
自分達2名も下山して病院に3時半前に着くとちょうど検査が終わるところで
腰骨の破裂骨折と胸骨の骨折と診断された。
不幸中の幸いで足のマヒはないが手術が必要と診断された。骨折以外の臓器の損傷はないとの事だった。
すぐ目の前1メートルもない先を歩いていたメンバーは、大けがだったけれどなんとか九死に一生だった。
山はやはり恐ろしい。