大雪狂想曲

f:id:darumammz:20220210125640j:plain雪は豊年の瑞(しるし)。

万葉集(三九二五)に「新しき年の初めに豊の年しるすとならしに雪の降れるは」と読まれ、年を越して新年(旧暦)を迎えても雪の多い年は豊年のしるしであるという。現代の統計では当たるも八卦当たらぬも八卦当のようだけれど、古くからの言い伝え、あるいは迷信として今に伝えられる。

この冬は、日本海側や北国の各地から記録的な大雪の知らせが届く。立春を過ぎても北海道は大雪で列車が軒並み運休している。ポイントが凍結して除雪機が動かせず、人海戦術で線路の除雪を進めているけれど、間に合わないようだ。

この数日、南岸(沿岸?)低気圧の発達に伴い首都圏でも大雪になるとテレビの気象情報では繰り返し放送されている。都会ではわずか数センチの降雪でも交通マヒや交通事故、転倒の怪我がたくさん発生する。コロナ禍第6波で家籠りが続き、暇つぶしに今朝からレースのカーテンを開け放って、いつ雪が降りだすかと窓の外を眺めているが、すでに昼時になるがまだ霙にもならず小雨が続いている。

北海道や東北地方、信州では、どこでも雪が降ると思われてしまうけれど、テレビの映像では知人がいる信州松本城天守閣はまったく雪を被っていないし、息子が住む北海道の新ひだか町も積雪はほとんどないようだ。南北に延びる日本列島は気候も北と南で違うし、太平洋側と日本海側でもまったく様相が異なる。暖かい地方のような気がする九州・福岡や熊本、海を隔てた四国にも雪が降るし、狭い、狭いと言われる日本でも決して冬の景色は一様ではないから面白い。

むかし暮らしていた津軽地方は雪が深い。城下町弘前のこの時期はすっかり雪に覆われている。一晩で50センチメートル以上雪が積もることもまれではなく、リンゴ畑のなかの借家に住んでいたころは、まだ薄暗い早朝の雪かきが重労働だったことを思い出す。道路に降った雪を道端に除雪するので歩道がなくなってしまい、転ばぬように、車に跳ねられないようにと、すっかり着ぶくれしてペンギンにようになって、ヨチヨチと小股歩きで仕事に出かけた記憶がある。いまでは廃絶してしまったスパイクタイヤを装着した車に乗っていて交差点でスリップし、道端の電柱に正面衝突したこともあった。一方、同じ青森県でも太平洋側の八戸市ではまったくといってよいほど雪が降らない。転勤で住んでいた時期に雪で困った経験がない。よく晴れた風のない冬日に子供を連れて景勝の種差海岸を散歩した記憶がある。

雪にまつわる冬の記憶は尽きないが、もう五十年以上の昔、感受性豊かな青春のころ、下宿の屋根裏部屋で、深々と静まりかえった冬の夜に宮沢賢治の詩集を読んでいたことを覚えている。過激な学生運動がにぎやかな頃で、いまと違って感性が尖っていた時期に読んだ詩編は終生の糧となった。忘れられない一遍に妹の臨終に際して詠んだ「永訣の朝」がある。(あめゆじゆとてちてけんじゃ)最愛の妹との別れを科学者である賢治が声なく慟哭して記した言葉が、冷たく輝きながら舞い落ちる霙のように心に染みた。

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冬にまつわる話で最近読んだものにトーベ・ヤンソンの「ムーミン谷の冬」がある。海と森と山に囲まれたムーミン谷に棲むムーミン一族は冬眠する。冬眠の途中でまぜか目が覚めてしまった主人公ムーミントロールが雪に埋もれた窓をこじ開けて一面の銀世界を冒険する物語は、まるで詩の世界そのものだ。ムーミンシリーズは子供向けの童話であるとされているけれど、その世界は深遠だ。作者が描こうとした物語は、架空の生き物たちの姿を借りて、生きることの意味を問う哲学書であることを意図したのかもしれない。個性豊かな登場人物(?)たち、あるいはお化けや怪物は孤独のなかを楽天的に生きている。原作9冊を深読みするとけっこう難解な部分も少なくないが、これらの作品は多彩な芸術家であるトーベ彼女自身が抱く、生きることの不条理への共感と諦観、それでもなお謳いあげなければ収まらない生命への賛歌なのだと思う。

昼近くなって、雪がようやくちらついてきた。積もるのだろうか。

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寒い冬のおやつで欠かせないものがある。冬季限定のラミーチョコだ。チョコレートのなかにラムレーズンが忍ばせてある。赤い包装が目に入るとついつい買いこんでしまう、寒い時期の嗜好品だ。在庫がきれないようにいつも食器棚の目につく場所を定位置に決めて保管している。ラム酒に漬けたレーズンが挟んであり、食べるとほんのりとからだが暖かくなる。

日がな一日、外を眺めて、もし雪が積もったら朝の雪景色の写真を添えて明日この続きを書こうと思う。

追記:昨夜は弱い霙が降ったり止んだりで、2月11日(建国記念日)の今朝、積雪はない。