生きるために食べるのか、食べるために生きるのか。難題である。
若い頃は生きるために食べていた。その日その日を乗り越えるためにエネルギー補給が必要だった。
最近は朝起きるとまず最初に今日の晩飯は何を食べようかと考えるようになった。若い頃とは明らかに違う。朝一番にそれを口に出すと、家人には貴方ってそんなに食べることに執着がありましたっけ、と言われる。
温暖化や乱獲で海の資源が激減している。かつては庶民の食卓には欠かせないおかずであった秋刀魚も烏賊も高級食材になってしまった。特に秋刀魚は昔であれば一匹百円でも買わなかった痩せて貧相な魚体のものでも今ではその五倍近い値段になってなかなか食べる機会を失ってしまった。
たまたま何を食べようかとレシピ本を探していたらシングルファーザーとしてひとり息子を育てている芥川賞作家の辻仁成の著作「父ちゃんの料理教室」(大和書房刊)を見つけた。面白そうなので図書館で借りてきて読んでみた。
(地味な表紙の「父ちゃんの料理教室」)
内容は料理にまつわるエッセイの体裁をとっているが、手塩にかけて育てたひとり息子の自立に対する父親からの「送る言葉」という内容だ。なんだかホロリと涙がこぼれそうになる本だった。
この本の最初に出てくるレシピを読んで、無性に烏賊のパスタが食べたくなり今夜はこれを作ることにした。
(とっても美味でした)