山陽本線青春の旅-その3

旅の三日目は尾道に向かう。

午前中は鞆の浦の町並みを観光して昼食は福山駅の駅ビルでラーメンを食べた。残念ながら尾道ラーメンではなくチェーン店の月並みラーメンだった。

鞆の浦の道端ではサヨリの干物を売っていた

デベラ(?)は予約済みで購入できなかった

古い神社_沼名前神社(ぬなくまじんじゃ)

昭和初期の面影を残す町角

山陽本線を少し戻って尾道駅に降り立ったのは午後1時半過ぎだった。宿泊予定の駅から歩いて5分あまりに建つビジネスホテル「尾道第一ホテル」に荷物を預けて尾道の町歩きに出かけた。

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尾道にもかつて一度だけ立ち寄ったことがある。尾道水道を眺める小高い丘の中腹を散策して海辺の小さな寿司屋で食事をした記憶だけが残っている。このときはわずかな時間で観光しただけだったことが心残りでぜひもう一度訪ねてみたいと思ってきた。もしもう一度この町のに来ることがあったら、そのときは乗れなかったロープウェイにのって丘上の寺院に参拝し、展望台から尾道水道を眺めてみたいと思っていた。尾道三部作で有名な大林宣彦監督が愛してやまなかったこの美しい歴史ある町の全容を自分の眼で確かめてみたいと思っていた。

銭湯を再利用した中華料理屋

駅前から長いアーケード道で繋がる商店街には歴史を感じさせる老舗の店舗が並んでいた。落ち着いた佇まいの中に意外と若者向けの店も多く、観光地であるとともにこの町がまだまだ若者達にとっても魅力のある、活気に満ちた町であることが感じられた。

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しまなみ海道

尾道水道

尾道の市街を見下ろす標高144mの千光寺山頂に登る千光寺山ロープウェイの乗り場は駅からアーケード街(本町通り)をぶらぶら歩いておよそ20分余りの山陽本線の線路脇にあった。料金は片道ひとり500円だった。所要時間は3分の短い旅だ。コロナ禍で制限されていた旅行が解禁されたことが影響しているのだろう、予想外に観光客が多い。しかも若者の姿が目立った。あちこちから、ここしばらく耳にしていない、おそらく中国語だろうと思われる外国語の頻繁に聞こえてきた。

30人乗りの小さなゴンドラを頂上駅で降りた先の展望台からは尾道水道尾道の町並みが一望できた。すぐ向こうの向島との間の狭い海峡が尾道水道だ。逆光がまぶしい。水道の端には本州と四国を結ぶしまなみ海道新尾道大橋が見える。急峻な丘陵地帯に広がる町は平安時代から続く数百年の繁栄の歴史のなかに今も元気に息づいている姿を見せていた。水道を走る船が白い航跡を残して進む姿が印象的だった。明治・大正・昭和時代を駆け抜けた、文豪林芙美子もきっとこの光景を眺めたのだろうと思うと不思議な感動がこみ上げてきた。光る海から上ってくる空気には千年の時を含む匂いを感じた。

せっかく瀬戸内海を象徴する海辺の町に来れたので、夕食には海の幸を食べたいとあちこちの寿司屋の予約電話をかけてみたが、すでに予約で一杯か、あるいは年末休暇で休業中だった。真新しい市役所の休憩所で海を見ながら休憩をとり、さらにぶらぶらろ海辺を歩いてゆくと夜の営業に備えて忙しげに若者が働く、準備中の居酒屋の前を通りかかった。飛び込みで入店を依頼すると、開店後すぐの17時からであればと、ようやく予約がとれた。店の中にはオート三輪が駐車してあり、あるいはオブジェとして飾ってあるのかもしれないが、そのすぐ脇の狭い階段が入り口で、レンガ造りの不思議な建物の居酒屋だった。

(レトロ感十分な居酒屋「たまかんぞう」)

早い時間だったので他には客はいなかった。鞆の浦で泊まった旅館の鯛づくしがはずれだったので、この海辺の町でどうしても瀬戸内海の海の幸を味わいたかった。居酒屋なので高望みはできず、刺身の盛り合わせで我慢した。晩酌に飲んだ「しまなみレモンサワー」が美味かった。レモンがこの地の特産品らしい。確かにアーケードの続く商店街でもレモンケーキを売る菓子屋が何軒かあった。まち歩きのおやつに、行き当たりばったりに違う店で数個を買って味見をしたが店によって味に違いがあって面白かった。

次の客の予約が入っている制限時間の18時半までに食事は終わりホテルに帰った。

それにしても尾道の町角を歩いている間ずっと、この町に流れる風情があって居心地のよい落ち着いた雰囲気を肌身で感じた。本来は港町特有の気性が荒い風土なのかもしれないが短い滞在ではこの町に生まれ育った人々の本当の姿は分からない。時間がとろりと流れ、海上を過ぎて行く舟のエンジン音が風に乗って届く。静かに歴史を刻む町並みは声高に自己主張せず、少し霞むように続く路地に偶然に身を置くと、通りすがりの薄っぺらな旅人にも林芙美子大林宣彦が抱いた望郷の思いが納得できる気がした。